飲食店の開業を目指して(1)―飲食業界の今―

 ※当記事は2019年に掲載したものであり、2020年の新型コロナウイルス、アフターコロナに関する事情は勘案されておりません。ご了承ください。

新型コロナウイルスに関する補助金等に関してはこちらのタグにて別途まとめておりますので、ご参考頂けましたら幸いです。

「将来はお洒落なカフェを作って素敵な毎日を過ごしたいな。ガーデンカフェを作るんだ。」
「定年になったら退職金で自宅を改装して蕎麦屋を開こう。蕎麦打ちには結構自信があるんだ。」
「もうあの部長の下では働けん!サラリーマンなんかやめて繁盛する飲食店作って一旗揚げてやる!」
 
 なんて考えたことがある人は結構いると思います。
 
 実際勤めていた会社を辞めて飲食店を開業しようとする人はよくいらっしゃいますし、飲食店は他の業種と比べて比較的開業しやすい業種と言えます。
 
 何故かと言えば、飲食店は参入障壁が低く、昨日のサラリーマンが次の日はシェフ、なんてケースもざらにあるからです。
 
 

1.飲食業界は参入しやすい?

 
 結論から言えば、飲食業界は比較的参入しやすい業種と言えます。
 
 飲食店開業の参入障壁が低いポイントとして、下記の点が挙げられます。
 
 
① 特別な資格がいらない
 
 経営者か従業員の誰かが食品衛生責任者の資格を持っているだけで、飲食店が開けます。とは言っても、経営者自身が他の飲食店で1年か2年は修業した方がいいでしょう。
 
 
② ビジネスモデルが多数ある
 
 全国に飲食店は60万店近くあります。その全てがモデルケースとなります。
 
 
③ 金融機関から融資を受けやすい
 
 ビジネスモデルが多数あるため、金融機関を説得しやすいとも言えます。勿論、しっかりした事業計画書を作成することが前提ですが。
 
 
④ 要件さえ満たせば、飲食店開業の許可を得やすい
 
 飲食店舗数は定量制ではないので、要件を満たせば基本的に許可はおります。ただし、書類の要件が少々複雑ではありますので、我々行政書士がお手伝いをさせて頂いています。
 
 
 また、他業種と比べた時に飲食店ならではの特徴もあります。
 
 
① 飲食業界は回転が早く、新規参入がしやすい
 
 しかし新規参入がしやすいということは、裏を返せばそれだけ退場している店舗も多いわけです。成功するためにはしっかりした戦略が必要となります。
 
 
② ライバルが多い
 
 ①の続きとなりますが、飲食店はその店舗数と参入のしやすさゆえにライバルが多いです。しかも大企業や有名チェーン店とも鎬を削ることになります。
 
 
③ ターゲティングがしやすく、客層が厚い
 
 ほぼ全ての人間に食事は必要ですから、人類の大半は潜在的な顧客となります。
 また、店舗の立地がオフィス街ならサラリーマン相手、学校の近くなら学生相手と、ターゲットを明確にしやすいと言う特徴もあります。
 
 
④ 初期費用は個人で賄うには少々高い
 
 どんなに抑えようとしても、開業資金だけで1000万円かかります。ランニングコストも含めればその1.5倍から2倍は欲しいところでしょう。都合2000万円以上はかかる計算になります。
 参考までに、士業の開業初期費用は50万円から300万円程度です。安い。
 
 
 まとめると、「資金さえ用立てできれば飲食業界には参入しやすいしビジネスモデルもたくさんある。ただし、ライバルも多くはじき出される可能性も高い」となります。
 
 

2.飲食業界の現状

 
 飲食業界はモデルケースが多く、また、官公庁や公益法人で様々な統計を出しており(統計局の経済センサス」や「公益法人 食の安全安心財団」が例として挙げられます。)、各統計やモデルを見ると飲食業界がどのような経緯を辿り今どうなっているかが見えてきます。
 斜陽と言われることもある飲食業界ですが、実際今どうなっているか、見ていきましょう。
 
 
 ① アルコール業界は落ち込みが激しい
 
 食の安全安心財団の統計によれば、バーや居酒屋などのアルコールメインの業態は、ピーク期であるバブルの頃や20年前から比べるとかなり落ち込んでいます。数字で見ると20年前は4.7兆円規模でしたが、現在はおよそ3.5兆円と、7.5割近くまで減少しています。景気のあおりをもろに受けている業態でもありますし、最近の人は酒を飲まなくなってきていると言う現状もあるのでしょう。
 
 
 ② レストランや個々の専門店は、市場規模は拡大している
 
 同じく食の安全安心財団の統計によれば、アルコールがメインでない店舗は、逆に市場規模は微小ながら拡大しています。20年前の市場規模は13.4兆円ですが、現在の市場規模は14兆円前後と微拡大しています。外国人観光客や独身世帯の増加が数字を押し上げているのでは、と言う見方もあります。
 
 
 ③ 外食率は10年前にいったん落ち込んだが、現在は回復している
 
 外食率自体は全盛期の20年近く前と比べると多少落ち込んでいますが、低迷期(リーマンショック期から東日本大震災前後)から比べると緩やかではありますが増加傾向にあります。リーマンショック以降は一時期低迷期でしたが、今は全体的に盛り返しており、2000年代初頭の水準まで回復しつつあります。
 
 
 統計で見ると、外国人観光客や独身世帯の増加により、斜陽どころか拡大傾向にある市場と言えます。ただし、アルコールメインの店舗は規模が縮小しており、バーや居酒屋の開業は厳しいと言えるでしょう。しかしアルコールは嗜好品であり、いつの時代にも必ず熱心なファンがいます。アルコールメインの店舗が縮小している主な原因は格安チェーン店の隆盛と雑な酒の出し方をしていた店がどんどん淘汰されていると言うことなので、独自の店舗コンセプトを打ち出し経営者自身がしっかりと勉強をすれば、リピーターを抱え込める店舗を作れる下地はあります。
 
 
 また、個人経営の店は減少傾向にあり、企業経営の店舗やフランチャイズ店が数を伸ばしていると言うデータもあります。いきなり個人開業をするよりも大手とフランチャイズ契約を結び事業をスタートするのも一つの考えではないかとも思います。
 あわせて、薄利多売の経営戦略は大企業には勝てませんので、個人店は安さで勝負するよりも質とリピート率を重視する戦略をとりましょう。個人の蕎麦屋が「富士そば」や「ゆで太郎」と価格で勝負するのは無謀と言えます。
 
 
 

3.※2020年6月追記 コロナ後の展望

 このエントリーを書いたころから随分と事情が変わる出来事が起こってしまいました。新型コロナ感染症です。
 
 現在は2020年の6月、緊急事態宣言が解除され再び活気が戻ってくるかと言ったところですが、インバウンドによる需要喚起はまだまだ先でしょう。と言うことは、国内の需要だけで勝負しなければなりません。
 店舗についても、今から開業するとなれば例えばテーブル間のスペースを従来の店舗よりも広めに取る等の対策が必要となってきます。
 
 創業融資についても、現在政策金融公庫も各銀行も新型コロナ感染症対策に関する既存店舗の対応で手いっぱいです。職員が出社できない関係もあり、創業融資の審査が遅れる場合もあります。
 
 
 残念なことに結構な数の飲食店が閉店してしまいましたが、逆に言えば新規開業についてはチャンスと言えます。
 駅近のいい物件について、居抜きで借りられる可能性もあるかもしれません。
 
 まとめると
 
・悪い点
 
 インバウンド需要が復活するまではまだ時間がかかる。
 従来型の店舗よりも客席数が減り、商品の価格等の調整が必要となる。
 創業融資の融資実行が遅れる可能性がある。
 
 
・良い点
 
 既存店舗が減り新規参入の敷居が低い。
 駅近の物件等が居抜きで借りられる可能性もある。
 政府が新規創業の後押しをしており、補助金や低金利融資の選択肢が多い。
 
 と言ったところでしょうか。

4.まとめ

 
 
 飲食店を開業することに対しては風当りが強く、「飲食店を開くのは無謀だよ」とか「数年持たないからやめときなって」と言われることも多いと思います。しかし、飲食業界は決して斜陽産業でなく、むしろ規模が拡大している業界ではあります。確かに潰れている店舗や夢半ばで敗れた経営者も何人もいますが、断じて「失敗が約束された業種」ではないと言えます。
 
 戦略や資産管理をしっかりと考えれば成功しやすい業種でもありますし、何より、自分が考えたおいしいものを食べてもらって人が笑顔になってくれたり、「とってもおいしいお店があったよ!店の内装も素敵だよ!」と言って貰えるのは経営者冥利に尽きると思います。
 
 当事務所はそんな経営者の皆さんを応援していきたいと思っています。
 
 今回は飲食業界の現状と参入についてお話ししました。次回は飲食店の開業を目指して(2)―飲食店開業までのスケジュール―となります。