飲食店の事業譲渡の話

 飲食店(に限らず許認可の必要な商売であれば一般的に)を引き継ぐ場合、大体のケースで営業許可の再取得が必要となります。
 
 これは、役所としては「申請者本人に対して許可を出したのであって、関係者であるなしに関わらず他の人に出したわけではない」と言うことであります。
 営業許可の売買などもってのほかです。
 
 ただし、一部のケースでは届出等の簡易な方法で引継ぎができる場合があります。
 
 今回のエントリーでは許認可のある商売の引き継ぎについてお話ししていきたいと思います。
 
 

1.営業許可の再取得が必要なケース

 基本的には、許認可が必要な商売の引き継ぎには全て、引き継ぎ人の営業許可の取得及び譲渡し人の営業廃止届けのセットが必要となります。
 
 例えば店の親父さんが引退して子供に引き継ぐ場合や、知人から商売を譲り受ける場合は営業許可の再取得となります。
 また、個人と法人は別人格であるため、個人名義でやっていた店を株式会社等に法人化する場合でも、営業許可の再取得が必要です。
 
 
 例として、親父さんが引退して子に引き継ぐ場合の流れは次のとおりとなります。
(1)子が申請書及び添付書類を揃えて保健所に営業許可を申請する。
(2)無事、営業許可が出る。
(3)親父さんの方の営業廃止届を保健所に提出する。
(4)保健所に廃止届が受理されて営業の廃止が完了する。
 
 子の営業許可と親父さんの営業廃止届を同時にやる場合も多くあります。
 
 営業廃止届については実体のない営業許可が残り続けるのは役所としても見逃せないものであるため、横着せずに届出ておいた方が良いと思います。(営業許可更新手続きまで放置して更新せず許可が消滅するのを待つ方も中にはいらっしゃいますが、どんな不利益を被るか分からないのでお勧めはしておりません)
 
 基本的に事業承継による営業許可の取得は役所の許可も出やすいですが、何十年も続いている老舗の場合は設備が現行の基準に適合していないケースもあり得ます。その辺りは注意して欲しいところです。

2.営業許可の取得が必要ないケース

 中には例外的に営業許可の取得が必要ないケースもあります。次のケースのような場合は営業許可を再取得する必要がなく、届出だけで済ますことができます。

(1)親から相続で店を引き継いだ
(2)会社名義で許可を取っていたが、吸収合併されて名前が変わった
(3)会社名義で許可を取っていたが、代表者が変わった
 
 生きてる親から営業を引き継ぐ場合は許可の再取得が必要となりますが、鬼籍に入った親から営業を引き継ぐ場合は許可取得の必要はなく、届出だけで済ますことができます。
 
 また、会社の場合には吸収合併や会社分割によって会社の名前が変わったりした場合、届出だけでよいとされています。ただし、「事業部門を売り渡す」「担当者は変わらなくとも会社分割によらず新設会社を作って事業を切り離す」と言った場合は、新規に営業許可を得る必要がでてきます。
 
 会社の代表者やオーナーが変わる場合実体上は経営者の変更ではありますが、許可を取得している名義人である法人が変わるわけではないため代表者の変更届出のみでよくなります。

3.ケーススタディ・親から店を引き継ぐ場合の手続きのタイミング

 秋葉寿司を経営する寿司職人”秋葉寿彦”は現在79歳。80歳を前に引退して何十年も一緒につけ場に立つ息子”秋葉司”に店を任せようと思っている。
 
 父親の腕や舌が鈍ってきたことを敏感に感じ取っていた司自身も引退には賛成だが、父親についている常連客は何人もいるし、何だかんだで父親はライフワークとして今後も時折つけ場には立つだろうと思っている。
 
 許可の再取得も手間ではあるし、手続きについてどうすべきか現在思案中。
 
 こういうケースの場合、経営の実体が息子の司に移るのであれば、行政書士としては営業許可を父親のままにするよりも引退した時点で息子に移すべきだとアドバイスすることになります。
 
 確かに許可の再取得は面倒だしお金もかかります。それよりは父親が亡くなった時に相続によって営業許可を承継した方が楽に思えますが、現実には問題が起こるケースが多くなってきます。
 
(1)税務及び役所上の問題
 まずは税務や役所上の問題から見ていきます。
 
 実質的に経営は息子が行っているとは言え営業許可及び事業届は父親のままである場合、何か問題が起こった際にややこしくなります。
 
 場合によっては実体と相違した営業と言うことで、営業許可の取消しや税法違反と言われてしまう可能性もありえます(滅多なことではないと思いますが)
 
(2)父親が認知症になってしまった場合の問題
 父親が引退後に認知症になってしまった場合も困ったことになります。
 
 店の経営者が父親であるため、各種契約が結べなくなる可能性が出てきます。
 
 また、そうなった場合結果的に息子が許可を再取得する必要が出てくるため、できれば手続きは余裕のあるうちに済ませておいた方がいいでしょう。
 
(3)相続時に起こり得る問題
 父親が鬼籍に入った後に営業許可を引き継ぐ場合でも問題が発生する可能性はあります。むしろこれが一番多いかもしれません。
 
 例えば司の弟である次郎が経営権の相続を主張してきた場合、話がややこしくなります。
 
 営業許可の地位承継は相続人全員の同意が必要であるため、相続人の一人である次郎が司への相続に反対した場合は営業許可の地位承継はできなくなります。
 
 この状態を解消するためにはもはや何とか次郎を説得して司が店の相続人となる事を納得させるか、家庭裁判所に調停を申し立てる他なくなります。
 
 
 
 上記のように色々な手続きを放置しておくと決まって面倒な問題が起こりがちになるので、行政書士としては基本的に実体に沿った手続きをお勧めしています。

4.まとめ

 飲食店に限らず、許認可の必要な事業を引き継ぐ場合は大体のケースで引き継ぎ人の営業許可取得と譲渡し人の廃業届をセットで行うことになります。
 ただし、例外的に届出のみで引き継ぎができるケースもあり、少ない書類や短い手続きで完了する場合もあります。
 
 生きている時に引き継ぐよりも亡くなってしまった時に引き継ぐ方が手続きは簡単ではありますが、経営実体が移っているのにも関わらず手続きをしなかった場合は色々と問題や不都合が起こったりもするので、できるだけ実体に沿った手続きをしておいた方が良いと思います。
 
 上記のことから踏まえて、何らかの事情で経営者がコロコロ変わる場合は、法人化しておくと手続きが楽になります。


 
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