調剤薬局の開き方(2)ー開業資金ってどれくらい必要?ー

 
 事業開業に必要な大きな柱は資金」・「計画」・「場所」の3つと、「タイミング」・「やる気」です。
 この5つが定まらなければ、開業したくてもできません。
 「タイミング」については運や流れもありどうしようもない部分もありますが、「資金」・「計画」・「場所」については来たるべきその時の為に用意しておかなければなりません。
 むしろその3つが揃った時が、「タイミング」と言えます。
 
 と言う訳で今回は、調剤薬局を創業するまでの「資金」・「計画」・「場所」のうち、資金についてお話ししていきたいと思います。
 
 無資格者がオーナーになるケースではなく国家資格者である薬剤師が調剤薬局のオーナーになるまでの流れを想定しているのでご了承ください。
 

1.開業するまでの資金と時間の関係

 開業に必要な3本の柱ですが、柱を立てていく順番としては「資金(自己資金)」→「計画」→「場所」→「資金(融資)」と言った感じです。
 「資金」については自己資金と融資で柱を立てていく順番が異なると言うか、全て揃って初めて「融資」をお願いする形となります。
 と言う訳で、今回は資金と言いつつ「自己資金」と「開業費用」についてスポットを当てていきたいと思います。
 
 さてさて、全く0から開業までどれくらいの自己資金が必要となるのかと言いますと、概算で「1000万円から1500万円」とお答えしています。
 理由と内訳については後ほど述べますが、これだけの額を貯めるとなると、例えば大手製薬会社のMRをしていたとしても2年から3年くらいはかかるのではないでしょうか。
 
 そして「2~3年お金を貯めればすぐ開業できる」と言う訳ではありません。
 ある程度開業資金の目途が立っているとしても、店舗の開業までは短くて半年、長くて1年は見越しておいた方がいいと思います。
 開業場所が賃貸ではなく土地建物を調達してから……となるともっと時間はかかりそうです。
 
 と言う訳で、できるだけ早めに開業したい場合はだらだらと無計画に開業資金を貯めるのではなく、開業日を逆算しながら計画的に貯蓄をしていく必要があります。
 
 タイムラインとしては次のようになっているのでご参考ください。

2.開業に必要な資金ってどれくらい?

 前項で開業のために必要な自己資金は概算で1000万円から1500万円と言いました。
 
 これは日本政策金融公庫に「自己資金をこれだけ貯めたので後は融資して貰えれば開業できます。」と胸を張って言える金額となりますので、大体このくらいを目安に貯蓄をお勧めしています。
 
 もちろん「東京の一等地」や「土地建物から調達して開業」となれば1500万円では足りませんし、地方で自分の持ち家を改装して開業するとしたら1000万円も必要にはなりません。
 あくまで一般論的な概算なので、開業形態のケースによって違う点についてはご容赦ください。
 
 
 開業費用として考えなければけないのは下記の通りとなります。
 
 
(1)開業の場所費用
 店舗を賃貸で借りる場合、例えば賃料が15万円で保証金額が6か月分である場合、初期費用として初月賃料+保証金で税込み115万5000円はかかる計算になります。
 その他不動産屋の仲介手数料として賃料一か月分、礼金もあればその分かかる見込みとなります。
 初期費用としては賃料の10倍程度は見ておいた方がいいかもしれません。
 
 土地建物から調達する場合、頭金として総費用の15%から30%程度は必要になります。
 例えば4000万円の土地建物を購入する場合、頭金が20%として800万円が初期費用として必要です。
 残りの額は抵当権を付けてのローンと言うことになるので、その部分は運転資金として計算することになります。ローンの方が事務所賃料よりも幾分か安くはなるしょうか。
 
 逆に持ち家の一部を店舗として改装する場合は、場所の初期費用はほぼなくなります。
 
 
(2)店舗の設計費用
 概算ではありますが、内装工事の坪単価はおおよそ20万円から30万円ほどです。
 つまり、10坪の薬局を開業する場合の改装費は200万円から300万円かかる計算になります。
 
 薬局の店舗設計は特殊なものもあるため、数の多い飲食店等とは違い対応してくれる内装屋探しに手間取る可能性もあります。特に地方に行けば行くほどその傾向は顕著です。
 納期が短くなればその分施工費用も上がるので、施工業者は早めに探しておきたいところです。
 
 
(3)設備費用
 何はともあれレセプトコンピュータは必要となります。
 そしてレセコンはとても高額であり、安くて100万円、いいものであれば300万円以上します。
 
 リースと言う手段もあり、その場合は電子薬歴含めて月額5万円~8万円ほどとなるでしょうか。
 初期費用は抑えられますが運転資金としてのしかかってくることになります。
 
 その他、分包機や事務用品(パソコン等)、接客設備、冷蔵庫や作業用備品等があり、レセコンをリースにするとしても初期費用だけで総計200万円から300万円はかかる計算となります。
 
 
(4)商品費用
 商品となる医薬品は数が多いです。近隣医療機関の先生がよく処方する薬を中心に、ジェネリック医薬品を含めてある程度用意しておきたいところではあります。
 患者さんは「薬局に行けば医師が処方した薬がある」ものと信じ込んでいます。もちろん現実的に考えてそう言う訳にはいかないのですが、医薬品の種類はサービスの品質にもつながりますので、できるだけ多めに用意しておきたいものです。
 
 もう一つ、場所が取れるのであれば調剤薬の他に一般的なドラッグストアで買えるものを店舗に置いておくのもいいのではないかと思います。
 特に住宅地の真ん中に店舗を構えるのであれば、地域住民の利便性の向上になるのではないでしょうか。
 
 薬局の規模や近隣医療機関にもよりますが、一般的に開業時の備蓄医薬品購入費の目安は300万円から400万円近くとされています。
 
 
(5)人件費等の運転資金(3か月から半年分)
 オーナー兼薬剤師が一人で運営することもできなくはないですが、働き方の余裕を考えるとどうしても事務員や雇われ薬剤師は必要です。
 
 事務員をパートにする場合でも「事務員の時給だけ」がコストになるわけではありません。雇用保険や社会保障も頭に入れておかなければなりません。
 正社員として事務員を雇うのであれば尚のことであり、運転資金の大半は人件費と言っても過言ではないかもしれません。
 
 更にレセコンや分包機と言ったものをリースする場合には、その額が月々のコストとしてかかってくることになります。
 その他に水道光熱費や通信料、家賃等もかかりますので、ひと月に必要な資金を計算してその3倍から6倍は開業資金として用意しておいた方がいいです。
 
 運転資金の概算ですがすみません、経営方針によってマチマチなので具体的に「○○円かかります」とは言えないものとなっています。
 
 
(6)その他、広告費等の費用
 場所や経営方針にもよりますが、調剤薬局は基本的に広告費等がかからない業種ではあります。
 近くの診療所と良好な関係が築けているのであれば特に広告を仕掛けなくても患者さんは来てくれますし、運よく大病院の目の前に店舗を構えられたのであれば店の看板だけでお客さんはいくらでも来ます。
 
 それだけに「調剤薬局の経営者に営業センスがあるケース」と言うのは稀であり、広告に対してちょっとした費用をかければ周囲のライバルを出し抜いて一気に地域トップに行ける可能性も高くなっています。
 
 広告の方針ですが、調剤薬局は地域の店舗であり大々的に広告を打つとかインターネットで広告をする必要はありません。
 地域住民に対するポスティングや、町内会長・商店会長等の地域の顔役に対する訪問営業が効果的でと言えます。
 つまるところ広告費用についてはあまりかかりません。高くても10万円行かない程度ではないでしょうか。
 
 
 
 開業までにかなりの額がかかってしまいますが、人を雇う場合は助成金が活用でき、タイミングが合えば医療機器等の購入・レンタルに補助金が出る場合もあります。
 その辺りは一人で開業準備をしようとしても気づけないことが多いので、できれば開業支援を売りにしている士業やコンサルに相談しながらやった方がいいと思います。

3.「通帳」を作成すると言うこと

 開業資金のついでに付け加えておきますが、私自身どの業種の創業についても口を酸っぱくして言っているのが、「通帳を作成する」と言うことです。
 
 自己資金を貯めることは大事ですが、”どのようにして自己資金を貯めたのか”も重要となります。例えば同じ400万円でも、毎月こつこつ10万円ずつ貯蓄し続けた400万円と、何の前触れもなくいきなり湧いて出た400万円では前者の方が融資を行う金融機関の覚えはめでたくなります。また、公租公課や公共料金の支払いを欠かさず続けていると言う事実は、金融機関にとって安心感を与えます。
 そのための証拠作りが、最低でも1年以上の時間をかけて「通帳」を作成していくと言うことなのです。
 
 通帳を作成すると言っても、資金が潤沢にあり派手な通帳でなければだめだと言う訳ではありません。創業者の人柄が出ていればいいのです。
 この場合の人柄と言うのは、「目標立て継続して努力でき、真面目に物事をこなす人柄」と言う意味になります。
 
 「公租公課や公共料金の支払いなんて何を当たり前な」と思うかもしれませんが「当たり前のことを当たり前にやっていますよ」と言うことをアピールできることも重要です。
 
 「通帳」の作成は運悪く事業が軌道に乗らず力尽きた時の保険にもなります。
 事業を畳み自己破産する際に、しっかりと管理された通帳があるのとないのとでは破産の難易度、その後の人生が大きく変わってくるでしょう。
 
 自己資金の貯め方自体はお任せするとして、大事なことは「通帳」に記録しながら明瞭な資金管理を意識することです。

4.まとめ

 事業のスタートアップには結構資金がかかります。
 
 特に調剤薬局は医療機器や初期在庫が必要となってくるため、通常の小売り店舗と比べるとどうしても必要資金は多く感じてしまうでしょう。
 
 どうにか初期費用を抑えたいところですが、どうしても上記に述べた費用はかかってしまいますので「できるだけ賃料が安いところを借りる」「安くやってくれる内装業者を見つける」「人をできるだけ雇わない」と言ったような解決策しか無いようにも思えます。
 ただ、できるだけ安く借りたところが医療機関も人通りも無いようなところであったり、人を雇わなかったために自分の体を壊して休業となってしまっては本末転倒でもありますので難しいところです。
 
 今回は「新規開業」をテーマにお話ししていますが、既存店舗を買い受けての開業方式(M&A形式)ももちろんあります。
 
 しかし、M&A形式については場所や設備、初期在庫についての問題は解決できるものの、既存店舗の買取費用については0からの初期投資と同等かもしくはそれ以上の金額がかかる可能性が高くなります。
 
 既存店舗の買取り形式はM&A仲介会社に対する手数料や前経営者の事情等があり、どうしても費用が高額になってしまうのは否めません。
 ただし、先にも述べたように場所や設備、初期在庫については最初から解決されておりますので、既存店舗売却のタイミングが合えば活用したいところもあります。
 
 他にも、元調剤薬局の事業所が貸店舗となっていればそれは天運が向いているのかもしれません。
 「店舗改装費用がかからない」と言う点と「そこに薬局がある」と言うことが周知されているアドバンテージは非常に大きなものとなります。
 何としても居抜きのまま借りて事業を始めたいところです。
 
 
 さてさて、長くなってしまいましたが開業資金のお話はこれで終わりです。次回「調剤薬局の開き方(3)ー事業計画の作り方ー」に続きます。
 
 
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