飲食店の開業を目指して(5)―契約期を乗り切ろう―

 
 法的なことですが、契約は基本的に紙ベースで行う必要はなく、口約束でも成立します。
 社長同士がゴルフ場で「今度うちの商品いくらで買ってくれない?いつもより負けとくよ」「いいですよ、じゃあ買いましょう」でも、成立していると言えば成立していると言う訳です。
 これは法律が「契約自由の原則(契約の方式の自由)」を強く推しているので、契約の形式を敢えて法定せず、国民にその形式について委ねていると言うことであります。
 
 しかし実際のところ紙や他の媒体で記録としておかなければ証拠として残っておらず、本当に契約が交わされたかどうかは第三者から見て不明であり、紛争が生じた際には契約を否定する側が有利となりますのでできる限り契約は書面として残す傾向にあります。
 
 また、民法等の法律で記録を残すことが義務付けられている契約もあり、例えば「借金の保証人になる」等の契約については、書面の契約書を作らなければ効果を生じません。
 
 
 さて、今回はそんな契約を種々交わす必要がある第3フェーズ・契約期についてお話ししたいと思います。
飲食店開業スケジュール
 契約期は店舗物件の賃貸借契約からインフラの契約、その他内装工事等、種々の契約を結び物理的に店舗の開業体制を整える期間です。
 ここまでくると、開業に至らなかった場合は大きな損を被ることになりますので、何とか全てを乗り切って店舗開業、更にはその先にある順風満帆の店舗経営と行きたいところです
 
 契約期にやることは、大きく分けると下記の3つになります。
 
① 店舗物件・インフラの契約
② 内装工事・仕入れ先契約
③ 広告の準備と打ち出し
 
 また、第2フェーズの開業計画期でやりきれなかった項目を第4フェーズである開店直前期までには片づけておく必要があります。
 特に販促計画の作成や業者の選定については、しっかり予定をこなしていないとこの時期まで残りがちです。
 開店直前期は契約期以上の忙しさですので、できるだけ積み残しの仕事は無いようにしましょう。
 
 それでは、契約期に片付けるべき項目をそれぞれ見ていきます。
 

1.契約期にやるべきこと① 店舗物件・インフラ契約

 
 日本政策金融公庫から融資の決定が確定したら、内諾を得ていた店舗物件の賃貸借契約を正式に結びます。
 同時に水道光熱のインフラも契約を結びますが、特に気にすべき点はガス会社との契約ではないかと思います。
 カフェ等であれば都市ガスでも問題無いですが、中華料理屋やラーメン屋と言ったところでは、熱量の高いプロパンガスを選ぶ方が多いそうです。
 都市ガスもプロパンガスも一長一短ですが、多くの場合は店舗の形式に合わせて内装工事会社の方がきちんと説明してくれると思います。
 
 また、多くの飲食店では店内BGMのためにUSENを契約していますし、スポーツバーなどのコンセプト居酒屋ではテレビの導入、即ちNHKとの契約も必要になってきます。
 
 契約によっては実際の設備導入まで時間がかかるところもありますので、必要と分かっていることは早いうちに調べて契約を結んでおいて方がいいでしょう。
 
 

2.契約期にやるべきこと② 内装の工事・仕入れ先の契約

 
 業者にもよりますが、一般的に飲食店の内容によって内装工事の価格に大きく違いは出ないと言われています。
 
 しかし私が見るところでは、大きく違いが出ないと言ってもやはり差は存在し、例えばカフェ等は全体的に安く仕上げることができますが、焼肉店を開業する場合はどう計算してもカフェの倍以上は工事費がかかるように思います。
 
 内装工事にかかる総額や実際の出来についても、コネクションや人脈に左右される部分が大きいですので、業者の選定やコネクション作りはできることなら第2フェーズ・開業計画期のうちに終わらせ、余裕をもって工事に臨みたいところです。
 
 また、居抜き物件から開店することができれば開業コストを大きく抑えることができますので、そう言った物件を早期に紹介して貰うためにも、不動産屋とのコネクションも作っておくといいと思います。
 
 原材料等の仕入れ先についても、やはり安定しているに越したことはありません。食料品のうち、特に野菜は種類によっては季節によって価格が変動しやすいものですので、馴染みの仕入れ業者を作っておくと良いと思います。
 基本的にほとんどの飲食店は季節や時期由来の原材料の価格変動によってメニュー表の額を変えることはできませんので、経費を一定に保つことが安定経営への近道と言えます。
 

3.契約期にやるべきこと③ 広告の準備と打ち出し、飲食情報サイトの扱い

 
 個人事業の広告方法として、基本的には紙ベースのチラシ配布と店舗サイトの作成が挙げられます。
 
 飲食店の広告手段としてはもう1点、「ぐるなび」や「ホットペッパーグルメ」に代表される飲食情報サイトによる宣伝がありますが、実のところこの飲食情報サイトの扱いは、功罪半ばの厄介な存在ではあります。
 
 現在多くの日本人が、この飲食情報サイトの検索結果を頼って店を探しています。
 
 うまく使えれば集客に繋がりますが、これらのサイトで高い評価点を得たければ、お客さんに口コミを書いて貰うと同時に飲食情報サイトに対しても、安くはない広告料を支払う必要があるわけです。
 
 逆に「うちはそう言う飲食情報サイトは嫌いだし、使わないよ」と言う方針を取っていても、現在のところは「勝手に登録されて」「知らない間に口コミや評価がされている」「広告料を支払っていないのでどんなに頑張っても高い点は出ないし、下手をしたら低い点をつけられる」と言う状況になっています。飲食情報サイトに対して自店舗情報の削除依頼を出しても、なかなか削除されないのが現状のようです。
 
 こう言った状況ではありますので、飲食情報サイトに対して「完全無視」を決め込むわけにもいかないと思います。
全く使わない方針を貫き他の部分でカバーするのか、それともある程度割り切って広告費を出すのか、飲食情報サイトに対する扱いを契約期までには決めておく必要があります。
 
 

4.まとめ

 
 契約期は物理的に店舗の開業体制を整えていく期間であり、この期間でやったことを破棄するとなると、それなりにコストや違約金等が発生してきてしまいます。
 そう言った意味で、「もう後戻りはできない期間」と表現しています。
 
 しかし、世の中には「全く設備が使われていない新品の居抜き物件」と言うものも、結構見つかっており、つまるところ「店舗の賃貸借契約を結んで内装工事まで終わったのにもかかわらず、開業計画を白紙に戻してしまった」と言う人も、少なからずいるわけです。
 
 世の中に完璧な計画と言うものはありません、順調に進んでいるように見えても、どこかに落とし穴があります。「ここまですべて計画通り、契約も乗り切ったぞ、後は開業するだけだ」とならず最後の最後まで、行程をこなしていくことが重要となります。
 
 さて、今回もここまでお付き合いありがとうございました。次回は飲食店の開業を目指して(6)―いよいよ開業、開業直前期―のお話をしていきたいと思います。