飲食店の開業を目指して(4)―開業計画期にやるべきことは―

 
 料理系の蘊蓄漫画が結構好きで、昔は美味しんぼや将太の寿司などをよく読んでいました。
 当時(1980年代から2000年くらいまででしょうか)の料理漫画の特に魚介類関係で共通して見られたのが、圧倒的な天然もの信仰です。
 曰く「養殖ものは脂でギトギトしている」「天然ものの魚には養殖ものにはない旨味がある」「この魚は養殖ものだ、とても食べられたものじゃないよ」などなど。
 
 恐らく当時は養殖技術も発展の途上にあり、工場生産食品忌避の思想とも相俟って天然もの信仰が正しかったのでしょう。
 しかし、現在では養殖技術も格段に進歩し、天然ものには天然ものの良さが、養殖ものには養殖ものの良さがそれぞれあり、どちらの方が優れていると言う訳ではありません。寿司屋なんかで「これは養殖ものだから寿司としては格下で云々」などと言う見当違いな蘊蓄の披露は避けたいところです。
 経営者としては時代と共に常識は変わっていくことを常に頭に入れ、過去の見識で止まることなく日々情報をアップデートしていきたいと言う教訓でした。
 
 
 
 さて、前回のエントリーでは第1フェーズ・開業準備期のお話をしました。今回は第2フェーズである開業計画期のお話をしたいと思います。
飲食店開業スケジュール

1.開業計画期はどんな期間?

 
 一口で言うと、開業計画期は事業計画書作成と創業融資申込みのための期間と位置づけることができます。
 
 開業準備期に考えていた夢物語を文字情報に書き起こし、具体的なコンセプトや試算を交えて開業のための設計図を作成する期間となります。
 
 事業計画書作成のために必要な情報は主に下記のとおりです。
 
① モデルケース及び物件の調査
② 店舗コンセプト及びデザインの作成
③ 資金調達計画の作成及び試算
 
 
 事業計画書を作成するとともに店舗物件賃借の内諾を貰い、日本政策金融公庫に新創業融資の申込みをするまでが第2フェーズの流れとなります。
 新創業融資制度及び事業計画書作成の詳細については、以前にブログエントリーでまとめていますのでそちらを参考にして頂ければ幸いです。
 
 
 さて、事業計画書はできるだけ賃貸物件を抑える前に作成しておきたいところですが、これがなかなか難しいところで、必ずしも自分の描く理想的な店舗と現実に抑えることができた店舗物件が一致するとは言えません。
 
 例えば「少し割高だがお洒落なカフェ」を始めたいと計画していたのに借りることができた物件が学校の近くでは、コンセプトの変更を余儀なくされる事になります。
 お洒落なカフェでメインターゲットとなる年齢層は30代以降の比較的財布に余裕がある層です。客単価が安価で騒がしくなりがちな学生に居座られてしまってはメインターゲットが寄り付かず、目標としていた収支もモデルから大きく外れてしまうでしょう。
 その場合抑えることのできた物件を諦め開業期間が伸びても次を探すか、ターゲットを変える必要があります。
 
 事業計画書と実物件の乖離をできるだけ防ぐためには、事業計画書作成前のモデルケースの調査をしている段階で不動産屋等に足を運び、開業予定の地区ではどのような物件が空きやすいか調査し、また、自分の理想とする好物件が空いたら早めに紹介して貰えるよう人脈を作ることが、成功のための第一歩と言えるでしょう。足を使って情報を収集し人脈を作る必要があります。
 
 
 

2.収支の試算に必要なことは?

 
 店舗コンセプト作成時に必要な数字の計算として、まず試算するべき数字は1か月にかかるランニングコスト、経費の見積もりとなります。
 
 開業前の試算ではオープンまでにどれくらい費用がかかるかについては目を向けますが、月々の経費については後回しにされがちです。
 しかし月々の経費は店舗運営及び融資申込みにおいて最重要の数値であり、それでいて計画の段階でも具体的な試算をしやすく、確度の高い数字が得られる箇所となります。
 店舗運営にいくら必要なのかを把握することが、まず最初にやるべきこととなります。
 
 
 続いて行うのが一日の売上げの予測です。
 
 売上げについてはモデルケースから判断することになりますが、経費に比べると試算の精度は落ちることとなります。ⅰ.経費から計算した店舗維持のために最低限必要な売上げ ⅱ.モデルケース店において標準的に達成している売上げ ⅲ.目標とするべき理想の売上げ等、複数のパターンを想定しておくことで、数字の確度を高める必要があります。
 
 
 最後に開業のための初期投資費用を計算し、経費と複数の売上げ予想から月間の収支計算を行い、「経営者の報酬を含めた営業利益が赤字になっていないか」「初期投資の回収が長期の年数になっていないか」をチェックします。
 収支試算の修正と検証を繰り返し、実現性の高い店舗運営モデルにしていくことが重要です。
 
 大切なのは収支試算が夢物語にならないことです。自分の中だけで試算を完結させるよりも、開業コンサルタントや飲食店開業に詳しい税理士、行政書士にチェックして貰えば、より実現性の高い収支試算を作成することができると思います。
 
 事業成功のために是非ともコンサルタントや士業をうまく使っていくことをお勧めします。
 

3.物件の契約と創業融資の時期について

 
 日本政策金融公庫の新創業融資制度の場合、必ずしも店舗物件の賃貸借契約前に融資を申し込む必要はありません。
 物件の概要が記載された資料と賃借の内諾が得られていることが分かれば、それを提出すれば問題ない場合がほとんどです。
 
 物件を契約し保証金や手付金等の支払いをした後に融資申込みをした場合、仮に融資のおりなかった、または融資の額が想定よりも少なかった場合には、「資金が足りず開業までたどり着けない」と言うリスクを伴います。
 余計なリスクを回避するためにも、賃貸借契約を結び保証金等を支払った後ではなく内諾が得られた段階が、融資申込みの適切な時期ではないかと思います。
 

4.そのほか、開業計画期にやっておきたいこと

 
 契約期及び開店直前期の忙しさを考えると、販売計画の作成や店舗サイトの準備は開業計画期のうちにやっておいた方が良いと思います。
 
 また、あわせて食品衛生責任者の資格も取得しておきましょう。
 資格自体は一日講習を受ければ取ることができますが、中々人気の講習であるため予約が取れず、開店直前の忙しい時期になってようやく受講することができる…なんて可能性もあります。
 
 現在のところ一度取得すれば生涯有効ではありますので、早めに取っておきたいところです。

5.まとめ

 開業計画期は調査、試算、検証、修正のサイクルを繰り返し行う期間です。
 具体的な数字や客観性が求められ、更にはそれを書類に落とし込み視覚化する地道な期間ですが、はっきり言えば駆け出し経営者のほとんどはこの地道な作業を行う毎日の繰り返しとなっています。
 謂わば新米経営者のための予行演習の期間となるでしょう。
 
 この期間を好きになれる方はなかなかいませんが、ここを突破し諸々の試算や計画作成のコツを掴むことができれば、成功への道はぐっと近づきます。
 修行のための期間と割り切って、コツコツと積み上げていきましょう、きっと輝かしい未来が経営者の卵であるあなたを待っているはずです。