いつか来るかもしれない撤退戦のために頭に入れておくこと

 基本的に起業のほとんどはうまくいきません。
 
 
 業界にもよりますが、事業を始めて3年後に生き残れる確率なんて10%以下の場合がほとんどです。つまるところ、ほとんどのケースで撤退戦が発生すると言う事になります。
 もちろん「自分は絶対に成功する」と言う気概や退路を断つ考えも必要ですが、撤退戦も考えずに突っ走って燃えてる事業と一緒に崩れ落ちる必要なんてありません。
 経営者と言うのは一度は起業までこぎつけた傑物なのですから、何度かやっていればいずれは成功する可能性もあります。
 
 そんなわけで、一度の失敗で身を焼かないためにも、ひょっとしたらいつか起こるかもしれない撤退戦についてお話ししたいと思います。
 
 
 
 撤退戦に必要なことは何か?
 
 
 まず、撤退戦に至るまでの段階で、ある程度の約束事を守っていることです。
 
 正直成功する方法なんて確立されていませんし、ケースバイケースな上に運要素も強いです。
 しかし撤退戦に至るまでの道……泥沼に足をとらわれず撤退できる道のつけ方について言えば、次の3点を守れば大体コントロールできます。
 
 
 
1.資金調達は金融機関や資本家だけにすること
 
 
 資金調達のエントリー等で何度も言っていますが、親族や友人からお金を借りてはいけません。闇金等については以ての外です。
 
 お金を借りるなら金融機関! これに尽きます。
 
 金融機関の融資については、倒産なんて慣れており基本的には折り込み済みです。
 法律事務所勤務時代に破産の関係で何度か金融機関ともお話をしましたが、「お金が返せない」と言う通知にもかかわらず非常に淡々としておりました。
 
 その代わり、借りるときには具体的な数字や事業を俯瞰した視点を含めた説得力のある事業計画が必要です。
 逆に言えば、客観的な事業計画を立てられるいい機会ともなりますので、基本的に事業を始めるとき、事業への投資をするときは自己資金がある程度ある場合でも、金融機関からの融資を受けた方がいいと思います。
 
 資本家についても、人にもよりますがある程度は捨て金として見てくれていることが多いため、お金が返せないことによる追い込みはそれほどありません。
 経営者自身の人柄によっては、撤退戦も含めて次の事業へのサポートもしてくれるかもしれません。
 
 何度も言いますが親族は最後の拠り所であり、こと親族からお金を借りている場合は撤退戦における最大の足枷ともなります。現状親族からお金を借りている場合は、できるだけ早期のうちに何らかの手段でもってお金を返済した方がいいと思います。
 
 
 
2.撤退戦に入る時期を具体的に決める
 
 
 「圧倒的に苦しいがまだまだいける……!」「ここを乗り切れば奇跡が起こるはず……!」
 残念ですが、大体の場合奇跡は起きません。もちろん経営者の超人的な力で乗り切れることは多々ありますが、撤退判断を誤ってどうにもならなくなってしまった……と言うケースの方が世の中には多くあります。
 
 そんな状況に陥らないためには、ある程度余裕のある地点を撤退ラインに設定しておくことが必要です。
 
 数字を見て機械的に撤退することが重要であり、例えば「資金が500万円を割ったら撤退」、「売り上げが300万円を下回る月が3か月続いたら撤退」と言ったような具体的な数字以下になったらアクションを起こすと言ったことが必要になります。
 
 ただ、必要と言っておいてなんですがこれができる人は少ないです、皆無です。
「そんなことできる超人本当にいるんですか?」と言うようなレベルです。
 なのでできないからと言って恥じることはないですし、本当に手遅れになる前に弁護士に泣きつけばなんとかなるかな?とは思っています。
 次で詳しくお話ししますが、具体的な数字を言うと、「死ぬしかなくなる3か月前及び現金100万円」が本当に手遅れになる一歩手前と言ったところではないでしょうか。
 
 
 
3.破産のための費用をとっておく
 
 撤退すると言う事はほとんどの場合破産すると言うことです。
 
 無論全て自己資金の場合は破産する必要はないですが、実際のところそんなケースは稀です。借金が無くても買掛金だったりリース代金だったりで何かしらのマイナスが存在します。
 
 東京都で事業を興している場合、破産するためには弁護士を通す必要があるため、弁護士費用がなければ破産できません。
 個人の破産であれば法テラス等による援助もありますが、事業によるものとなると援助はほぼ貰えません。
 
 そこで必要になるのが、破産による弁護士費用及び弁護士介入の期間です。
 
 事業形態や法律事務所にもよりますが、少なくとも弁護士費用として着手金100万円を用意しておけば、動いてくれる先生はいるのではないかと思います。
 弁護士介入の期間についてはフットワークの軽い先生なら事業規模次第では相談から一週間以内に動いてくれるケースもありますが、あんまりギリギリとなって弁護士先生に迷惑をかけてもなんなので1~2か月は見ておくといいでしょう。
 
 基本的には、弁護士が介入すれば貸金返済に追われる事がなくなります(逆に弁護士介入後に誰かにお金を返すと問題になります)。
 そこから先は 破産手続き開始申し立て→管財事件→免責決定 と続くわけですが、とりあえず弁護士介入の時点からは撤退戦の負担が半分以下になり、免責決定の時点で撤退戦の重荷からほぼ解放されます。
 
 
 余談になりますが、破産することのデメリットは実のところそれ程ありません。
 別段親族や仕事場に破産宣告を受けた旨が通告されるわけでもないですし、一度破産してもその後稼ぐことは自由です。
 
 ただし、クレジットカードやローンは少なくとも数年間は組めなくなるので、新規事業の立ち上げは難しいですし家や車等の購入は制限されます。
 
 また、業種によっては破産者が就けない業種もあります。(例えば我々士業は破産した段階で全ての委任契約を終了し各会を退会しなければなりません。また、不動産会社の役員に「破産者で復権を得ない者」がいる場合は宅建事業者免許を取り消されてしまうため、これも事実上なることができません。)
 
 
 
 
 
 さて、まとめに入りますが、今回のエントリーはこれから起業される方、あるいは起業して間もない方に向けたエントリーです。現在進行形で炎上中の経営者の方については、実情に即した個別具体的な救済手段を調べるか、弁護士事務所に駆け込むかした方がいいかもしれません。
 当事務所でよければ、破産に強い弁護士への紹介も含めて経営についても相談を承ります。
 
 まだまだ燃えていない経営者の方について言えば、撤退戦はなかなかイメージがつかないかもしれませんが、事業者ならば誰にでも起こりうる話です。
 無論、撤退戦なんて経験しないにこしたことはありませんが、事業なんていつどこで落とし穴が待っているか分かりません。
 順風満帆な経営であっても、1.資金調達 2.撤退ライン 3.撤退時に残す資金と時期 を明確にしておいた方がいいと思います。