資金調達の作法-お金はどこから借りますか?-

1.無借金経営と言う響きの甘い罠

 
 多くの経営者にとって、無借金経営は理想とするところであります。
 
 かの有名な任天堂は、有利子負債0%、自己資本比率が80%近くと言う優良財務体質と言う会社です。世界に名を馳せる大企業で無借金経営を貫くということは、通常できることではないでしょう。
 
 任天堂程の大企業では非常に珍しいですが、中小企業の中にはいくつか無借金経営の会社もありますし、個人事業においては結構な割合で無借金経営を続けている人もいるのではないでしょうか。
 
 しかしこの無借金経営状態と言うのは、経営に余裕があって結果的に無借金となっている場合はいいのですが、現金がない中、借金は怖いからと言う理由で無借金を貫いている場合、それは得てして間違った戦略と言えます。
 
 会社や事業主にとって、手持ちの現金がないという事態はいつ命を止められてもおかしくない状況であり、死活問題です。
 

2.現金を持つことは重要である

 
 極端な例を挙げますが、「月商2000万円の会社において、3000万円の現金と5000万円の借金がある状況」と、「現金も借金もない状況」の二者の場合、無借金経営である後者の状態よりも、前者の方が圧倒的に健全な会社となります。
 
 仮に翌月の収支が思うようにいかなかった場合でも、前者であれば余剰の現金があり返済もランニングコストの支払いも何とかなりますが、後者の場合はランニングコストが支払えず、不渡りを出しそのまま倒産…と言う可能性もあります。
 
 資金調達は数日やそこらでできるものではありません。
 
 特に銀行の場合は、融資がおりるまでには最低でも三週間以上、信用保証協会付き融資であれば二か月近くかかる可能性があります。
 得てして金融機関は苦しい時に限って助けてくれません。
 彼らも商売でやっているわけですから、「資金繰りが苦しいから金を貸してくれ」と言っても、返ってくるかどうか分からないところには融資できないというわけです。
 
 資金の調達は現金に余裕があるときこそ、やっておいた方が良いと言えます。
 
 

3.身内から金を借りるな銀行から借りろ

 
 資金の調達方法にもいくつか方法があります。
 
 銀行や信用金庫、政策金融公庫などの政府系金融機関、事業者向けのノンバンク、資本家からの出資や身内からの援助など、他にも様々な形態があります。
 
 メジャーな形を挙げると、創業時点であれば政府系金融機関や資本家から出資して貰える、既に設立して何年か経っている会社であれば銀行からの融資で資金を調達し続けられれば、理想と言えるのではないでしょうか。
 
 個人事業や小さな会社の場合、金融機関からの融資は利子がついてもったいないし、親戚や知人が援助してくれるからと言って身内から無利子で借りるケースが多いですが、これははっきり悪手と言えます。
 
 金融機関であれば貸した金が返ってこないのはある程度織り込み済み、それも含めての事業と言えますが、個人の場合はそうは言えません。
 法律事務所勤務時代に破産関連の仕事を何件か手がけましたが、金融機関とのやりとりは良くも悪くもビジネスライクであり、非常に淡々としていました。
 
 しかし、個人や小さな会社が相手の場合はそうもいきません。
 
 「なんとかお金は返ってこないのか」「返せるって言ったじゃないか!なんとかしてくれ!」等の怒りや悲哀の言葉を受けるのが常でした。
 
 また、普通の人は法律上や業界のルールを知らないケースもあるので、弁護士が介入してなお、直接破産した本人とのやりとりを試みようとすることもありました。
 破産した本人からしてみても、やはり身内には後ろめたいところも多いようで、身内だけでやりとりをして後ほど問題になるケースもあります。
 
 資金調達は「まず金融機関から」が原則と言えます。
 
 
 付け加えますが、身内に一切頼るな、と言う事ではありません。
 
 事業を畳み何もなくなった時、金融機関はほとんどの場合助けてくれません。身内に頼るのは最後の最後、何もなくなった時の拠り所となります。
 人としての最後の拠り所を残しておくためにも、創業や発展の段階で身内と言うカードを切るのは、やめておくことが得策と言えます。
 
 

4.まとめ

 
 資金の調達について要件をまとめると
 
① 現金は常に用意しておくこと
② 資金調達は余裕がある時にこそ行え
③ 身内から金を借りるな、金融機関から金を借りろ
 
となります。
 
 以上の3点は資金繰りにおいて基本中の基本となりますので、順風な経営でつまずかないためにも、最後の拠り所を失わないためにも、常に心に留めておく必要があります。
 
 一つ欠けるだけでも大失敗となりかねません。
 
 さて、このエントリーは資金調達についての概論となります。
 実際に資金調達を考えている場合は、下記エントリーをご参考頂ければ幸いです。

 

 開業資金調達の王道、新創業融資制度についてのエントリー。

 

 新創業融資制度以外の創業資金調達方法について。

 

 飲食店向けテイクアウト助成金について。