創業資金の調達方法(1)ー新創業融資制度のススメー

 ある程度軌道に乗っている会社や事業の場合、金融機関の方から融資の話を持ってきてくれたり、資産家が「ぜひあなたに投資をしたい」なんて言ってくることもあります。
 しかし、会社設立や事業開業の段階で銀行融資がおりたり資産家が投資してくれたり…なんて話はほとんどありません。余程強力なコネクションがあるか、必ず成功するような保証でもない限りは見向きもされないでしょう。
 創業の時点で資金が潤沢であればもちろん成功しやすいですが、実際にどうやって資金を調達していくのか、と言う問題が立ち塞がってきます。そこで重要になってくるのが、公的融資制度や補助金、助成金と言った、公的機関による創業支援となります。

1.日本政策金融公庫の新創業融資制度について

 創業時点での資金調達方法はいくつかあります。制度融資や補助金・助成金、近年では新たな投資の形態であるクラウドファインディング等があります。しかし数ある資金調達の中で最も王道かつ有力なのが、日本政策金融公庫による創業融資でしょう。日本政策金融公庫は、2008年に国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫及び中小企業金融公庫の三社が統合され株式会社化された金融機関です。(正確には加えて「国際協力銀行」の四社での統合でしたが、2012年に国際協力銀行は再分離しました)
 日本政策金融公庫は小規模事業者の担い手と言う目的があり、個人事業主や零細会社にも積極的に融資をしてくれます。また民間の金融機関とは違い、「新創業融資制度」と銘打って、新規開業者に対しても融資の門戸を開いています。更に重要な点として、返済が長期間であり低金利、そして無担保無保証で融資を受けられます。
 
 無論相当有利な条件で融資を受けるからには条件があり、下記の三要件を満たす必要があります。
 
① 新たに事業を始めるか、または事業開始後税務申告を2期終えていないこと
② 創業事業について次のいずれかに該当すること
  ⅰ.雇用の創出を伴う事業を始める
  ⅱ.従前勤めていた業種と同じ業種の事業を始める
  ⅲ.産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める
  ⅳ.民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める
  ⅴ.新創業融資制度の貸付金残高が1,000万円以内である
③ 創業時における創業資金総額の10分の1以上の自己資金が確認できること
 
 いずれもそれほど難しい要件ではないですが、やはり創業融資に限定した条件と言えます。加えて融資の上限額が3000万円とされていますので、最初から大きな事業を始められるとは言い難いです。また、自己資金300万円で3000万円を申請しても、満額の融資がおりることはまずないでしょう。(最大でも1500万円前後、事業によっては500万円しかおりないかもしれません。)しかし、やはり個人で最初から受けられる融資としては破格のものでありますし、融資の時期が限定されている以上、可能な限り切るべきカードとなります。
 前回お話しした通り、自己資金がある程度潤沢である場合でも創業融資は受けるべきです。多少の利子を払ってでも現金がある事は何よりも安定経営に繋がりますし、金融機関から金を借りていると言う実績にもなります。利子についてはステータスを買っていると思って割り切ってほしいところです。 

2.新創業融資制度の成功条件

 新創業融資制度は創業者に対して広く門戸を開いています。しかし、勿論のことながら融資の申し込みをした全ての人に対して融資をしてくれているわけではありません。残念ながら融資を受けられない人も中にはいます。実績や売上のスタートラインにほとんど差が無いのであれば、日本政策金融公庫はどこで融資の判断しているのでしょうか。
 
 日本政策金融公庫は公的な金融支援機関と言えども、銀行や信金と同じ金融機関に変わりはありません。つまり、「貸したお金をしっかり返してもらえるか」という点が最も大事なポイントとなってきます。つまるところ、融資申し込みの際に「私は貸したお金を必ず返せますよ」と言う裏付けを、書面や資料を通じてしっかりとる事が重要になります。
 また、金融機関は融資の基準として、「事業の将来性及び成功率」「経営者の人柄」の2点を主に審査し判断しています。一例として下記の項目がしっかり把握できているか、申込書に書面や資料を添付し、また、面談の際に淀みなく答える事が必要となります。
 
① 自己資金はどのようにして調達したか、計画的に貯蓄したものか
② 事業経験はどのくらいあるのか。また、業界の概況はどのようになっているのか、業界をしっかり俯瞰できているか
③ 信用情報に傷はないか。公租公課に滞納はないか、カードの支払いは滞りがないか
④ 創業計画や資金繰りに説得力はあるか。楽観的な見方や水増ししている部分はないか
 
 他にも判断材料はありますが、基本的には「事業の将来性及び成功率」と「経営者の人柄」、そして「貸したお金を必ず返せる」と言う信頼が融資成功の鍵となります。特にお金の動きや数字は重要視されますので、楽観的な見方をすることなくしっかりと業界等を調査し具体的な内容で提出する必要があります。
 
 

3.通帳を作る

 「通帳を作る」と言っても、単に銀行で通帳を作成するというわけではありません。資金調達のために通帳の下準備をしていく事が重要と言う意味です。
 通帳の記録は融資のみならず金銭が絡む場面では何においても重要視されます。そして取引記録や貯蓄の記録が何よりも武器になる場合があります。
 例えば事業開業の為に一月10万円ずつ2年間定期的に貯蓄している記録がある場合、融資申込みの直前にいきなり240万円が振り込まれているよりも余程心証が良く有利となります。
 
 また、他からお金を借りていないことの証明、そして公租公課や公共料金をしっかり支払いしていることの証明にもなるでしょう。できることならば開業前の下準備の段階、ただ漠然と「いずれは独立しようかな」と思っている段階から、通帳を作っておけばそれがベストです。
 
 しかし開業までそれ程間がない状況でも全く通帳が作られていない状況よりはましですので、このエントリーを見たその日から、意識して通帳を作っていくに越したことはありません。ただし、見栄えのいい通帳を作ると言っても見せ金はやめておきましょう。看破されやすく、ばれた時のデメリットが非常に大きいです。

4.まとめ

 繰り返しますが、創業時点での資金調達は日本政策金融公庫の新創業融資制度が王道です。そして日本政策金融公庫も金融機関ですので、「事業の将来性及び成功率」と「経営者の人柄」、そして「私は貸したお金を必ず返せますよ」という点が重要となります。
 売上げや事業の実績が必要ないとはいえ、やはり初めて融資を申し込む場合には不安もあるでしょうし、何を提出したらいいのか手探りになる場合も多いです。そして何よりも、失敗した場合は開業前から事業が頓挫する可能性も多くあります。創業融資に強い税理士や行政書士等の士業に相談することも、一つの手ではないかと思います。
 
 今回は新創業融資制度の概要についてお話ししました。次回は創業資金の調達方法(2)ー融資までの流れとタイミングーとなります。