飲食店の開業を目指して(3)―事前準備期の過ごし方―

 
 前回のエントリーでは飲食店開業までのスケジュールをお話ししました。今回は第1フェーズである事前準備期の過ごし方についてお話ししたいと思います。
飲食店開業スケジュール
 事前準備期は飲食店開業の下ごしらえの更に手前、料理で言えば食材を買ってくる前の材料決めの段階です。「飲食店を開業しよう!」と心に決めてから、漠然とコンセプトやメニューを考えながら下書きをしていく段階であり、はっきり言えば一番楽しい段階ではないかと思います。
 この時期から細かい数字や収支試算を具体的に書き出すことができれば成功率は高いのですが、実際はほとんど無理か、的外れな計算になるのではないかと思います。
 事前準備期にやるべきこととして、下記の4項目が挙げられます。
 
 ① 自己資金の貯蓄
 ② 「通帳」作成
 ③ 飲食店での経験
 ④ 勉強会・セミナー出席
 
 準備期間を1年から2年取っている割にはやることが少なく感じるかもしれません。
 しかし、自己資金の貯蓄も「通帳」の作成も短期間ではできないものですし、飲食店の経験もできれば長期間続けた方がいいでしょう。
 サラリーマンとして働いている方であれば、生活や貯蓄のために会社勤めをしながらこの期間を過ごすことになると思います。そう考えると、あまり余裕はないのかもしれません。
 
 

1.事前準備期のやること① 自己資金の貯蓄

 
 日本政策金融公庫の資料によれば、飲食店の開業資金の平均調達額はおよそ1000万円前後となっています。融資額は大体自己資金額の3倍程度であることがほとんどですので、創業者の自己資金額は少なく見積もっても350万円、不測の事態も考慮して400万円から500万円の自己資金額を用意しておく必要があるでしょう。
 一人暮らしのサラリーマンが倹約を重ねても、400万円は一朝一夕には貯まらない額ではないかと思います。しかし、ここばかりは例えば「街金から資金を借りてくる」「友人から借りる」と言うわけにはいきませんので、何とか頑張って貯蓄しなければなりません。金融機関は返さなければならないお金に敏感ですので、特に創業資金の場合は借金があると融資して貰えない可能性が高くなります。
 また、以前のエントリーでも何度か言ってますが、”親族に支援して貰う”のはできるだけやめておいた方が良いと思います。親族からの支援は廃業の時まで取っておきましょう。

2.事前準備期のやること② 「通帳」の作成

 
 自己資金を貯めることは大事ですが、”どのようにして自己資金を貯めたのか”も重要となります。例えば同じ400万円でも、毎月こつこつ10万円ずつ貯蓄し続けた400万円と、何の前触れもなくいきなり湧いて出た400万円では前者の方が融資を行う金融機関の覚えはめでたくなります。また、公租公課や公共料金の支払いを欠かさず続けていると言う事実は、金融機関にとって安心感を与えます。
 そのための証拠作りとして、「通帳」を作成していく必要があります。
 通帳を作成すると言っても、資金が潤沢にあり派手な通帳でなければだめだと言う訳ではありません。創業者の人柄が出ていればいいのです。(この場合の人柄と言うのは、「目標立て継続して努力でき、真面目に物事をこなす人柄」と言う意味になります。)
 「公租公課や公共料金の支払いなんて何を当たり前な」と思うかもしれませんが「当たり前のことを当たり前にやっていますよ」と言うことをアピールできることも重要です。
 

3.事前準備期のやること③ 飲食店での経験

 
 日本政策金融公庫の新創業融資支援制度では、基本的にその業界の経験が重要視されます。
 「別業界から脱サラして飲食店開業」や「学生時代にフードチェーン店でアルバイトしていたが何年かブランクがある」と言う状況では、融資に向けたアピール能力は低いですし開店後の店舗オペレーションも覚束ない可能性が出てきます。
 平日の仕事終わりや土日を使って、少しでも飲食店でアルバイトなりを経験しておく必要があります。
 もちろん事前準備の段階では現在勤めている会社を辞める必要はありません。むしろ自己資金の貯蓄の面で言えば辞めることの方がデメリットとなるケースが多いでしょう。
 
体は資本ですので、無理をしない程度に本業を続けながら週一でもいいので飲食店のアルバイトも経験していくと良いと思います。
 

4.事前準備期のやること④ 勉強会・セミナーの出席

 
 飲食店開業に関係する勉強会やセミナーは東京や大阪であれば毎日のように開かれています。
 
 勉強会やセミナーに関して言えば、内容や講師が自分と合う合わないはどうしても出てきます。
 可能であればいくつか参加して開業までのコツや人脈を掴みたいところですが、実際に開業することではなく「セミナーに参加すること」自体が目的となってしまう方も結構出てきてしまいます。
 
 仲の良い同志ができて「次はあのセミナーに参加しよう」「この講師がいいみたいだから出てみよう」となるのはいいのですが、「あくまで飲食店を開業し繁盛させること」が目標ですので、セミナー参加自体に引っ張られすぎないように注意してください。
 
 また、参加した際の心得として、セミナー終了前の質問コーナーでは必ず質問するようにしましょう。質問することで知識の整理ができているか自己点検ができますし、講師や主催者、参加者との何らかの人脈が作れる可能性も高くなります。
 

5.事前準備期のまとめ

 
 開業準備期は期間が長く比較的緩やかに進んでいきますが、それだけに油断をするとあっという間に時間が過ぎ去ってしまいます。
 最初は「飲食店を開業しよう!」と思っていても、開業準備期で留まり何となく日々を過ごしているうちにいつの間にやら熱も冷め、「いつかは自分の店を開業したいな」と言う夢物語で終わってしまう人も多くいます。
 
 それはそれで人生としては間違ってないとも正直に思いますが、夢物語で終わらせるつもりが無いのであればこの時期にこそ自分を律し、目標に向かってコツコツと続けていく必要があります。ひょっとしたら、精神的には一番頑張らなければいけない期間かもしれません。
 
 具体的なやるべきことも増えていきます。