迫りくる恐怖の「インボイス制度」

 消費税率引上げまで残り1か月となりました。税率の引上げによる実質的な物価の上昇や消費意欲減退による景気低迷への危惧もさることながら、我々行政書士を含む個人事業主及び中小企業の皆様に是非とも知っておいて貰いたいのは、消費税率引上げと共に付随して2023年10月を目標に導入される予定の「インボイス制度(適格請求書発行事業者登録制度)」です。今回のエントリーではこの「インボイス制度」についてお話していきます。
 
 

1.消費税に関する「インボイス制度」とは何?

 端的に言えば、現行制度の上で個人事業主や中小企業に発生している消費税の免税利益である「益税」を抑えこみ、納税の不公平感を解消するための制度です。
 
 現在年間売上げ1000万円以下の事業者は消費税の支払いが免除されている免税事業者となっていますが、その免税事業者枠を事実上廃止しようと言う制度が、「インボイス制度」となります。
 
 結論から先に言えば、インボイス制度が実施されれば「現在免税事業者となっている年間売上げ1000万円以下の事業者も課税事業者として登録することを余儀なくされる上に、課税に伴う事務負担も増加する」ことになります。
 
 そもそも免税事業者制度の制度理念は「小規模事業者の納税事務負担等に配慮して納税義務を免除し、もって事務処理の簡便さと事業者の最低限の生活を保証する」と言うところにありました。
 
 しかし消費税が3%から5%のうちは良かったのですが、近年税率が8%、そして10%と上がっていくにつれて「益税」の比率が大きくなりはじめました。このため課税事業者の不満も溜まり、また、財務省をはじめとした関連省庁でも「取れるはずの税金が取れていないのではないか」と言う議論が大きく交わされるようになってきました。
 
 結果として消費税率引上げから4年間の経過措置をもって、インボイス制度を施行すると言う事に相成りました。
 
 

2.免税事業者制度は廃止されるの?

 今回消費税の支払いを免れる「事業者免税点制度」自体が廃止されるわけではありません。
 しかし、インボイス制度が導入されると免税事業者でいるままの方が制度上不利な扱いを受けるため、事実上の廃止と言ってもいいでしょう。
 
 仮にインボイス制度導入後も免税事業者でいる場合、消費税の受け取りは一切できなくなります。
 その上で仕入税額の控除もできませんので、仕入税額分が自腹負担となりほとんどの場合は課税事業者になる方が利益が増えると言う事になります。
 
 単純に元々消費税であった部分を値上げすればいいのではとも思いますが、勿論そういう訳にも行きません。
 消費税だった部分にあわせて値上げをすればその分も売上げと言う事になりますので、当たり前のことですが事業税を取られます。
 
 また、消費税の受け取りができないと言う状態は課税事業者が取引先の場合に先方に対して負担を強いる事にもなってしまうのです。
 
 課税事業者が免税事業者から仕入れを行う場合、その仕入れについては仕入税額控除が適用できません。そのため免税事業者からの仕入れは課税事業者からの仕入れよりも税額が大きくなり、免税事業者が事業者間の取引きから排除される動機にも繋がります。
 
 利益の面から見ても取引の面から見ても、免税事業者でいる理由が無いと言えるでしょう。
 
 余談ですが、「益税」が発生しているもう一つの制度、「簡易課税制度」については今のところ現状維持となっていますが、この制度も廃止の方向で進んでいるのではないかと見られています。
 

3.インボイス制度導入で何かやり方が変わるの?

 インボイス制度導入によって、まず間違いなく手続きや請求書の内容が変わります。
 
 現在指摘されているだけでも、適格請求書から税額を本体価格から区分して整理し蓄積させていく作業、適格請求書の保存、記帳負担の増加と、事務作業は現在の帳簿方式に上乗せされる形で増えると言われています。
 
 また、インボイス制度対応に伴う新システムの導入等、金銭的な負担も強いられることになるでしょう。
 
 特に飲食関係を取り扱う事業については8%の軽減税率と10%の普通税率が混在するため、仕訳け作業の煩雑さや帳簿及び請求書・領収書の複雑さは他の事業の比ではないと思います。
 
 事務作業の負担増は間接的に人件費の部分を圧迫します。行政側からの押し付けによって事業者が一方的に損を被ることになりそうです。
 
 

4.まとめ

 まとめると、インボイス制度は我々のような零細事業者にとって課税増・事務負担増といいところが一つもない新制度です。
 
 厄介なことに、事業売上げ1000万円以下の免税事業者のみならず、本業以外の所得が20万円以下の副業者ですら煩雑な適格請求書の発行や消費課税を押し付けられます。
 
 無論のことながらこんな人を鞭で打ち続けるような新制度がすんなりと通される筈はなく、商工会議所等の中小企業連合や日本税理士会連合会はきっちりと反対を表明しております。
 
 制度自体も現在のところは2023年10月を目標に導入とされていますが「関係者の意見を勘案して」の特例措置や軽減税率導入等もまだまだ検討の段階です。
 
 他方、我等が日本行政書士会連合会はと言えば「インボイス制度」に対する目立った表明はまだ出していません。
 税法に関わる分野であり税理士会に配慮する必要もあるのかも知れませんが、行政書士の殆どは売上げ1000万円以下の免税事業者です。行政書士の生活を守るためにも、「インボイス制度」に対する何らかのリアクションは欲しいところではあります。