民法改正と保証契約

 前回のエントリーでは民法改正と契約書についてお話ししました。
 今回はもう一つ大きく変わる部分、保証についてお話ししたいと思います。
 
 
 前回は契約書の雛型を変更しておかなければいけないポイントとして、「契約不適合責任」と「履行の追完の選択権の排除」をお話ししました。
 実はもうひとつ、契約書に関する変更事項として「保証人」についても、雛型を変更しておかなければなりません。
 特に不動産の賃貸借や機械のリース契約については連帯保証人が含まれるケースが多いので、注意しておかなければならないでしょう。
 
 
1.変更と言うけど、何が変わるの?
 
 大雑把に言えば、保証人に対する保護が強化されました。
 
 保証人も結構大変ですが連帯保証人は法律上「実質債務者の一人」くらいの扱いですのでその締結には厳しい要件が課されて然るべきだとは思いますが、従来法では紙切れ一枚に判を押すだけで「今日からあなたも連帯保証人」と言う、何とも軽いノリで連帯保証人になれてしまいました。
 
 改正法でも基本的には契約書に判を押すだけで連帯保証人になってはしまうのですが、必要事項を定めておかなかったり、公証人による保証意思の確認ができていないと、保証契約自体が無効になるケースが規定されています。
 
 逆に言えば保証人が存在する契約書が必要な事業者……例えば不動産業者や機械のリースをしている事業者について言えば、契約書の保証人の部分については雛型を変更しなければなりません。
 
 
 
2.どう言った部分で何をすればいいの?
 
 保証契約については主に下記の4点について法改正が行われております。
 それぞれについて具体的に見ていきたいと思います。
 
 
 
① 保証人に責任限度額が設けられた。
 
 継続的な売買や賃貸借の契約等について、契約書で極度額(連帯保証人の責任限度額)を定めることが義務付けられました。
 また、あわせて個人根保証契約のケースについても契約締結時に極度額(保証人の責任限度額)を定めなければならず、極度額を定めていない保証条項は無効とされることになりました。(契約書全部が無効となるわけではありません。念のため)
 
 保証の条項の中に「保証人は○○円を限度とする範囲内において、本契約の債務を(連帯して)保証する。」と言った文言を入れておかないと保証の条項が無効となってしまうと言うわけです。
 
 
 
② 主債務者から保証人に対して情報提供義務が課されるようになった。
 
 契約書に主債務者から保証人に対して、主債務者の財産状況等を情報提供することが義務付けられました。
 
契約書にはそれぞれ記載する必要はありませんが、具体的に言うと契約締結時に下記の情報を主債務者から保証人に対して通知しなければなりません。
 
(1) 主債務者の財産及び収支の状況
(2) 主債務者が主債務以外に負担している債務の有無及びその額と履行状況
(3) 主債務者が主債務について債権者に担保を提供するときはその事実及び担保提供の内容
 
 保証の条項の中に「本契約締結の際に、主債務者○○は保証人○○に対して財産状況等を通知するものとする。また、保証人○○から請求があるときは、主債務者の負担にならない範囲で保証人○○に対して財産状況を通知するものとする。」と言ったような文言を入れておくといいかもしれません。
 
 
 
③ 債権者から保証人への情報提供義務義務が課されるようになった。
 
 今度は債権者から保証人に対してです。具体的には以下のとおりとなります。
 
(1)保証人からの債権者への問い合わせがあった場合に、債務者の返済状況を回答する義務
(2)主債務者が期限の利益を喪失した場合に、債権者から保証人へ通知する義務
 
 これも保証契約を結んだ後にしっかり対応しておかないと、保証条項が取り消される可能性がある改正です。
 保証の条項の中に「債権者○○は保証人○○から請求があるときは、主債務者の負担にならない範囲で保証人○○に対して財産状況を通知するものとする。また、主債務者が期限の利益を喪失した場合は、その旨を※2か月以内に保証人○○へ通知するものとする。と言った文言を入れていくことが無難だと思います。
 ※期限の利益喪失条項は法定で2か月以内の通知となっています。
 
 
④ 個人が事業用の融資の保証人になる場合、公証人による保証意思の確認手続が必要になった。
 
 会社や個人事業主が事業目的で融資を受ける際、事業とは無関係の親戚等が安易に保証人となってしまい、多額の債務を背負うケースが多くあります。
 そこで事業とは無関係の個人が事業用融資の保証人になる場合には、公証人による保証意思の確認が必要となることになりました。
 個人が公証人の前で保証人となる旨を宣言し、公正証書に残してもらうと言うわけです。公証人の意思確認が為されていない保証契約は当然のように無効となります。
 
 もちろん「事業とは無関係の個人」のケースに限られるので、主債務者が会社であり保証人が取締役や理事等である場合、あるいは主債務者が個人事業主で保証人が配偶者等である場合……要するに事業の関係者の場合は、例外的に公証人による意思確認は不要となります。
 
 例外と言っておきながら会社の連帯保証人は社長だったりする場合がほとんどなので、例外の方が母数が多かったりするんですけどね。
 
 
3.まとめ
 
 以上のように、保証契約付の契約書を多く結ぶ事業者……特に不動産関係やリース業者にとってはかなり大きな法改正となっています。
 無論のことながら従前法の下で契約を結んでいた場合は従前法に従いますので敢えて契約書の変更を行う必要はないですが、来月4月から結ぶ契約については法改正に関してしっかり対応しておかないと、保証条項が無効となってしまう場合が多くあります。
 
 契約書について不明な点がある方は、当事務所でもお近くの士業でも構いませんので、是非一度、相談をしてみることをお勧めいたします。