若者向け、遺言書を残す意味

7月10日から自筆証書遺言保管制度が開始されました。
この制度について大雑把に説明しますと、今までは公正証書によらない自筆の遺言については自己の責任で保存及び管理をしなければならず、改竄や遺失の危険性が高いものでありました。
しかしそれを3900円の手数料を支払うことによって、支局クラスの法務局で保管して貰うことができるようになりました。
さてさて、そんな自筆証書遺言保管制度自体の説明は他の先生やメディアの記事に任せるとして、今回は主に若い人向けに遺言書を残す意義についてお話ししたいと思います。
1.そもそも遺言書とは何か
民法で定められている手続きの一つです。
一般生活にもある程度関わってくるものであるため、法律に明るくなくとも殆どの日本人がその存在を知っているものであるかと思います。
人が死亡した際には相続が発生しますが、相続財産の行き先を故人が生前に決めることができる権利と言えば権利です。
この遺言書ですが、有効に成立した場合の強制力はなかなか強いものとなります。
まず遺言の存在自体が後に争いが起こった際に強力な証拠となりますので、弁護士や税理士、行政書士等の士業が絡むケースであれば(もしくは銀行や相続診断士であっても)まず遺言書の有無を確認しますし、基本的には遺言書のとおりに相続財産を分けることになります。
一応相続人全員の同意があれば法定相続や遺産分割協議書を元にして遺言によらない相続もできると言えばできますが、相続人や権利者が一人でも反対すれば大体の場合は遺言が優先されることになります。
もちろん民法で法定されている遺言書とはあくまで「財産の行き先」等について定めるものであるため、「私が死んだ後も家族仲良く暮らしてください」と言ったことや「俺の遺骨はヒマラヤの山中に埋めて欲しい」と言った遺言には基本的に強制力はありません。
ただし、「財産は長男に譲るが、その代わり長男は母の介護や面倒を見ること。母の介護をしない場合は財産は次男に譲ること」と言ったような条件付きの遺言書については、有効になる可能性は高くなります。(絶対的に有効となるわけではありません。相続人全員の意見が合わなければ、家裁による調停等が必要となります)
2.若い人が遺言書を残す意義
若い人には遺言は無縁のように思えますが、若い人でも……特に子供がいない方については、遺言について考えてもらいたいところがあります。
子供がいる場合、特にまだ幼い場合については相続の流れは比較的簡単であり、揉めることも少ないでしょう。
財産は全て配偶者及び子供に行くことになり、配偶者がおらず子供がいるだけの場合も同様に子供のみに行くことになります。
逆に子供がいない場合は結構面倒くさいことになる可能性が高くなります。
配偶者がいる場合は配偶者に3分の2以上は確定として、親のどちらかがいる場合は親に、親(及び祖父母)がいない場合は兄弟姉妹にいくことになります。
この場合ですが、配偶者、親及び兄弟姉妹で揉めるケースは結構多いです。
特に故人が結婚しており子供がいない場合は、故人の配偶者と親族で争いが発生することはザラにあります。
遺言書は生前の故人が財産の行き先を決めることができる権利であると同時に、相続人同士が揉めないようにするシステムでもあります。
不慮の事故で亡くなるケースもあり得るので、多少なりとも財産を持っている方は簡易なものでもいいので、遺言書を残しておいてもいいと思います。
3.自筆証書遺言書の要件
年配の方や資産の多い方については、我々士業は間違いなく公正証書遺言をお勧めしています。
遺言書を作成して公証人に認証してもらう方法ですが、お金はかかるかわりに遺言としての強度が他の方法と比べて圧倒的に強いからです。
しかし若い方やそれ程資産を持っていない方、もしくは現役で仕事をしており資産が流動的である場合については、必要ないとは言わないまでも公正証書遺言にお金をかけるよりも自筆証書遺言で済ませた方がいい場合もあります。
と言う訳で、自筆証書遺言の要件についてお話していきましょう。
自筆証書遺言は曲がりなりにも「証書」であり、法定の要件を満たさなければ「法律上無効」となります。(もちろん要件を満たさずに無効となっても、後日遺産分割協議等で遺言と同じ財産分けをして全く差し支えはありません。)
その要件とは次のとおりとなります。
(1)財産目録以外の全文を自書
(2)作成日付の自書
(3)氏名の自書及び押印
(4)15歳以上であり、かつ意思能力がある
ここを抑えていれば基本的に遺言として認められるでしょう。
例えば今を時めく女子高生がデコレートされた便箋に
「あたしの今ある全財産☆ えりかパイセンにちょ→お世話になったから、あたしが死んぢゃったら全部あげちゃう☆」
と言ったような本文で遺言書のようなものを書いたとしても、日付と氏名が自書され押印してあれば理論上は自筆証書遺言として成立していることになります。(ただし、家庭裁判所の検認が通るかどうかは未知数である上に、相続人……この場合は父母になるケースが多いと思いますが……としてはたまったものではないので、家裁に遺言の無効等を申し立てるなりすることになるだろうとは思います)
上記のとおり要件さえ抑えてしまえば原則遺言は有効でありますし、あまり無効を恐れることはないと思います。
逆にこれは士業としてのアドバイスですが正直遺言を書く上で最も重要なことは、法律的なことをしっかり守るよりも、相続人となり得る人達に対して「自分はこういう遺言を用意しており、不慮の事故で亡くなったとしたら遺言のとおりに財産を分けて欲しい」と伝えておくことではないかと思っています。
争いの回避には形式的なことよりもコミュニケーションの方が大事です。
4.まとめ
若年層から壮年層にとっては「自分が遺言を書くなんて……」と言う思いはあるかもしれませんが、遺言があれば防げた争いは山ほどあります。
特に子供がいない場合の争いは数多くありますので、できれば遺言はあらかじめ書いておくにこしたことはないと思います。
繰り返しますが、大切なのは「遺言を法定の形式に則って残しておく」ことではなく、「あらかじめ遺言を残している旨と遺言の趣旨を、相続人となり得る方々……配偶者や父母兄弟姉妹等に伝えてその通りに実行して貰えるようにしておくこと」です。
しっかりとコミュニケーションを取り争いを発生させない事こそが、後々の争いを避けるために必要なこととなります。