家族信託とはなんぞや

 終活に向けた財産管理の方法について「遺言書の作成」や「財産管理委任契約」、「任意後見、成年後見等の後見」等色々ありますが、近年にわかに注目を集めているのが家族信託」と言う方法です。
 
 今回のエントリーでは家族信託について基礎的なことをお話ししようと思います。
 

1.家族信託ってなに?

 簡潔に言えば、「委託者」が持つ財産の管理を「受託者」に委任し、財産から生じる利益を「受益者」が受け取る仕組みです。正直なんのこっちゃと言う感じですよね。これだけ聞いてもよく分かりません。
 
 分かりやすく具体的な例をお話しすると、例えばA太郎お父さん(委託者)がB次郎息子(受託者)に対して、お父さんの所有するビルの管理を家族信託契約によって任せたとします。
 
 B次郎息子はA太郎お父さんに代わってビルの賃貸借契約や修繕等の保存行為(お父さんが許せば売買契約も)をすることができるようになりますが、ビルの賃借費用と言った利益は「受益者」であるAお父さんが受け取るというものです。
 
 大体の場合は「委託者」が「受益者」を兼ねることになりますが、基本的には「委託者」と「受益者」は別の存在ですので、「受益者」をC子お母さん等にしても全く問題はありません。
 
 「なんで契約を先に結ぶみたいな面倒くさいことをするの?別にA太郎お父さんが管理してB次郎息子が手伝えばいいじゃん」と思うかもしれませんが、なかなかそうもいかないのが法律の世界。
 
 A太郎お父さんがボケてしまったときは、財産の保存行為ができなかったり事実上凍結してしまったりします。
 現実の運用上はあまり起こりえませんが、今回のケースで言えば最悪ビルの貸し借りができないまま放置……なんてケースもあり得るかもしれません。
 
 ボケてしまっても成年後見を開始して保存行為くらいは認められたりしますが、少なくとも「ビルを売ってそのお金を介護費用に充てよう」なんてことはまず不可能になります。
 
 その為にお父さんがまだ元気なうちに息子に財産の管理を信託する契約を結んで、自分がボケた後も事務処理を息子の名前でやってくれるような仕組みを作ることが家族信託なわけです。 

2.家族信託ってどうやるの?

 まず、家族信託は法律上自然に発生するわけではありません。当事者同士が契約して初めて効力を発揮するものです。
 
 自然発生しないので契約をする必要がありますが、契約自由の原則があるので比較的自由に自分たちのやりたいような仕組みを作ることができます。
 
 例えば普通の遺言では孫の代まで財産の動きを縛ることはできませんが、家族信託の場合やりようによっては「自分からまず妻へ、そこから二人の子供のうちお姉ちゃんを経由して、弟の子へ」と言った副次的な財産移転も可能となります(結構大変な契約書となりますが)
 
 家族信託の根拠法は信託法になりますが、信託法に沿う限りは大体どんな信託スキームも作ることができます。結構フレキシブルです。
 
 ただし、基本的に私人同士の契約ではありますので必ずしも公証人の認証が必要なわけではありませんが、信託法の趣旨を見るに契約書は公証人の認証は受けておいた方がいいと思います。

3.家族信託のメリットとデメリットはなに?

 家族信託について、他の財産管理と比べると次のメリットがあります。
 
① 遺言書と比べると、生前でも効力を発揮することができる。
 当たり前ですが、遺言書は死んだ後に効力を発揮するものです。自分が生きているうちにああしろこうしろと言ったことはできません。
 例えば「自分が認知症になった後は息子がビルの管理をしろ」と言った一方的な生前の契約を遺言書に押し付けることはできないわけです。
 
 家族信託であれば生前でも効力を発揮しますので、自分が生きているうちに財産管理を任せることができます。
 
② 成年後見制度と比べると、財産流動性が高い。
 正直成年後見制度は財産の流動性は低いです。
 何をやるにも家庭裁判所の許可が必要ですし、その許可を得るのも容易なことではないので事実上の財産凍結状態になってしまう可能性が高くなります。
 
 その点家族信託であれば管理については受託者に任されますので、一方的な凍結状態になってしまう可能性は低くなります。
 
③ 財産管理委任と比べると認知症等になっても財産の流動性を保てる。
 財産管理委任は家族信託に近い方法ですが、細かいところで異なってきます。
 
 例えば信託の場合不動産の名義が受託者になりますので、契約上許されれば委託者にかわって不動産を処分しお金に換えることができます。
 
 しかし財産管理委任の場合は委任契約ですので不動産の名義は委任者のままです。
 不動産を売買するには本人の意思が必要となりますので、本人が認知症になった場合は不動産を処分することができなくなります。
 
 その点においては家族信託の方が流動性は高いと言えます。
 
 
 もちろん家族信託にもデメリットはあります。
 
① しっかりした契約書を作らなければ、意図せぬ資産の凍結や信託終了が発生する可能性がある。
 信託法の運用自体が結構難しいですし、英米法ベースなので「最低限だけ定めておくからあとは各自勝手に決めて」みたいな部分が多々あります。
 契約自体が結構強固な作りになりますので、契約を変更したいのに変更できず資産が凍結……なんてケースもあったりします。
 
② 受託者にメリットが皆無。受託者探しが難航する可能性が高い。
 はっきり言って受託者には事務手続きが強要されるばかりで、うまみはこれっぽっちもありません。
 
 事務手続きに対する報酬でもあればまだいいのですが、報酬を渡したら渡したで別の家族から「特別受益だ!」なんて言われる可能性もあります。
 
 大体の場合事務手続きの素人がやることになりますので勉強に時間を取られることにもなります。 
 
③ 契約であるため、行為能力がまだ残っている認知症前でなければ契約できない。
 契約は当事者同士で合意して行うものです。ですので当然認知症になってしまえば契約すること自体が不可能になりますので、認知症になってしまってからでは家族信託はできません。成年後見一択となります。
 
 
 基本的に終活に向けた財産管理はそれぞれ一長一短がありますので、例えば「遺言書を作るよりも家族信託の方が優れているから家族信託だけやろう」とか「成年後見は時代遅れだから家族信託にしよう」と言って決めるものではありません。
 
 自分の目標や達成したい目的にあわせて、それぞれ選んでいくことになります。

4.まとめ

 家族信託と言う名のとおり、基本的に受託者は家族、もしくは複数の家族が社員となった法人がなるものです。
 
 我々行政書士や弁護士等の士業に任せてもいいように思えますが、受託者として業務を請け負おうとすると、信託業法上(場合によっては宅建業法上も)の免許が必要となりますので、基本的には大手法人でなければ手が出せないところでもあります。(信託業法の免許はかなり厳しいので、大手法人でも許可が貰えるかどうか分かりかねるところもありますが
 
 家族信託の主役はあくまでも家族です。同じ家族が終活を迎える家族を支えて、財産管理等をしていかなければなりません。
 
 しかし家族信託のスキームや契約書の作成、その他事務管理のアドバイスは我々の得意とするところではありますので、終活についてお考えであればお近くの士業や当事務所まで、お気軽にご相談ください。