香川県のネット・ゲーム規制条例についてのお話

 去る3月18日、ネット界隈を騒がせていた香川県のネット・ゲーム規制条例が県議を経て可決されました。
 
 中身について言えば、罰則や直接の義務規定がない指針を定めただけの条例ですので、特にこの条例が制定されたことで生活が変わると言ったことはないと思います。
 
 ただし、県民に対して具体的な数字目標(例えば、一日60分制限や午後10時以降はゲーム・ネットをしてはならないとする等)が要求されていますし、そもそも条例が制定されたこと自体が本質でもありますので、全く無視していいようなものではありません。ゲーム・インターネット業界にとっては割と深刻な条例と言えるでしょう。
 
 今回はそんな香川県のネット・ゲーム規制条例について条例の要旨に基づきながら適当に解説していきたいと思います。
 
 
 
1.ゲームやネットは一日一時間だけど、どこかでチェックされるの?
 
 チェックはされないと思います。
 
 例えばネット通信に関してプロバイダとかは開示請求をされたとしても、基本的にはそれに応じる義務はなさそうです。と言うか、条例第11条「事業者の役割」にある「依存症対策に協力するものとする」と言う表現がなんとも曖昧でどうしようもないです。
 普通の子供たちを四六時中監視するものでもないし、条例が使われるとしても、例えば「医師にゲーム依存症の診断が下され、行動の制限の為にプロバイダ等に通知がいく」と言った感じでしょうか。
 なんにせよ、行政が積極的に個人の権利を監視したり規制したりするために動く条例ではないと思います。罰則ないので警察も動けないですし。
 
 
 
2.ゲーム事業者なんだけど香川県向けに認証を入れる必要ある?
 
 ありません。
 
 ただし、条例の対象者が「県内の事業者」とかではなく単に「事業者」となっており、捉えようと思えばいくらでも広漠に捉えられる表現ですので(それこそ、海外事業者も対象にできるような気がします)、香川県が本気を出してゲーム業界を支配したのならば「□ 私は香川県民ではありません」みたいなチェックボックスが必要になる日も来るかもしれません。
 ジョークゲームならネタ的にそんなチェックボックスを作っていれてもいいんじゃないでしょうか(よくない)。
 
 現状で言えばゲーム業界全般的に対応の予定なしと言うことなので、心配はいらないです。任天堂師匠とかが配慮し始めたら潮流が変わるかもしれませんが。
 
 
3.香川県に遊びに行ったらゲームは規制されてしまうの?
 
 どうも条例の対象が「県民」みたいなので、県外の子については適用されないような気もします。
 
 ただし条例は属地主義的(その地域にいるときはその地域の制限を受ける)な面もあるので、香川県に入った時点でゲームは一日一時間の制限を受ける可能性もあります。愛媛県でゲームを1時間遊んだその足で香川県に入ったらその日はゲームができなくなるかもしれません。
 もちろん罰則も義務も何もないので制限かけようにもかけられないですけど。
 
 
4.条例自体があることが問題なので、条例の廃止をしたいけどどうすればいいの?
 
 方法がないわけでもないです。
 
 例えば当該条例が適用されて不利益を被った場合は、一審・高松地方裁判所→二審・高松高等裁判所→三審・最高裁判所 と順を追って争って、最高裁判所から「香川県のネット・ゲーム規制条例は憲法に違反する」と言う判断が貰えれば、香川県議会は条例を廃止せざるを得なくなります。
 ただし、最高裁判所が香川県のネット・ゲーム規制条例は憲法に違反する」と言う判断を下さなければ条例は廃止できませんし、そもそも「高裁を支持する」と言う判断がなされる可能性が高いです。
 そして、そもそも「この条例が適用される」と言うこと自体が最大の難関ではありまして、罰則や義務が規定されていないので「何を適用するんだ?」と言う話になります。かなりの無理ゲーです。
 「この条例ができたことで自由な経済活動が阻害された!」と裁判所に訴えても、「いや、義務規定がないんだから阻害されてないでしょ」と実質的に門前払いされる可能性が高いです。
 
 もう一つ方法があります。
 
 条例の制定と廃止はいわゆる「直接請求」の対象ではありまして、つまるところ「住民の意見があつまれば議会を動かせなくもない」と言う方法です。
 ただしこの要件が結構厳しく、有権者の50分の1の署名が必要であり、更にできることと言えば「条例の制定(廃止)を話し合うための議会を召集してくれ」と言うことだけで、実際に署名が集まれば条例が廃止されるわけでもありません。
 と言うか有権者の50分の1と言う数字はかなり厳しいです。香川県の有権者数は約83万人ですから、1万7000人近くの署名を集めることになります。
 
 「一旦作ってしまったら撤回が難しい」の典型ですねこの条例。
 
 
5.まとめ
 
 ゲーム業界の人であっても、香川県のネット・ゲーム規制条例で具体的に何かしなければいけないと言うことは基本的にありません。
 今のところは香川県に住む子供の保護者がとやかく言われるだけとは思います。もちろん努力義務ですので、守らなかったからと言ってどうなるわけでもありません。
 
 しかし、ネット上ではかなり注目された条例でもありますし、他県へとこの条例が羽ばたいていく可能性も捨てきれません。現に秋田県辺りでは似たような条例を検討しているようです。
 
 現状で言えばインターネット住民のおもちゃにされているような条例ですが、実際に条例が制定されてしまったこと自体が本質でもありますので、業界からしてもこれ以上の拡散と規制の強化はなんとか食い止めたいところではあると思います。
 
 個人的に娯楽産業の規制は望まぬところでもありますので、私としても緩やかに条例に対する反対は応援していきたいと思う所存です。