事業の立ち上げ(3)-無限責任の会社-

 前回のエントリーで、持分会社のひとつである合同会社に焦点を当てて説明してきました。
 
 会社の形態は株式会社や合同会社だけでなく他にも用意されており、合同会社と同じく持分会社として、合名会社や合資会社があります。
 しかしながら現行の会社法上で事業を興す場合、あえて他の会社形態を選んで設立しなくても、株式会社や合同会社を設立して事業を進めていく方が圧倒的に有利でありメリットも大きいです。
 
 実際に近年設立されている会社のうち、99.9%が株式会社もしくは合同会社であり、合名合資会社はほとんど設立されていないというのが現状です。
(数字で見ると株式会社・合同会社の年間設立登記件数の合計が12万社なのに対して、合名合資会社は200社前後です。正直に言えば、200社も設立されていることの方が驚きです、ほぼ0か多くて二桁だと思っていました。)
 合名会社、合資会社は何がいけないのか?そんな話をしたいと思います。
 
 
1.有限責任と無限責任
 
 株式会社と合同会社の社員(出資者)は有限責任であり、合名会社の全社員、合資会社の一部社員は無限責任となります。
 
 分かりやすく説明すると、株式会社と合同会社の社員について言えば、会社と社員の財産債務は明確に区別され、会社が負債を抱えて倒産しても社員に対して債務の履行を請求されることはありません。
「せっかく出資して会社作ったのになくなっちゃったね」でおしまいです。
 
 対して合名会社と合資会社の場合は、社員に対して無限責任を負わせていますので、会社が倒産した場合は債務の履行を請求されることになります。会社という形態を取りながら個人事業主とほぼかわらない責任を負わされます。
 
 無限責任である点がやはり株式・合同会社と合名合資会社とは一線を画してますので、合名合資会社が不人気である最たる理由となっています。
 
 とは言っても、中小企業の株式会社や合同会社の場合は、銀行や信金等から融資や借入を受ける際には社長さん個人が連帯保証人となるケースがほとんどですので、事実上無限責任となんら違いは無いとも言えます。
(もちろん日常のやり取りや契約でいちいち連帯保証契約は結んでられませんので、取引先等からの債権債務を見れば有限責任ですが。)
 しかしながら事実上は無限責任だったとしても、法律上では有限責任とされていますから、やはり株式会社や合同会社を選んだ方がいいのではないかと思います。
 
 余談になりますが、日本の有限会社や中国の有限公司に見られる「有限」や欧米系会社のLtd”Limited”は、責任が有限である旨からきています。
 存続期間が有限であるとか権利が有限であるとかそう言うことではありません。
 
 
 
2.旧商法時代からの名残り
 
 旧商法の時代には、株式会社を作るにも有限会社を作るにも、出資金の最低金額に制限がありました。
 株式会社を作るには最低1000万円、有限会社でも300万円の資本金が必要でした。(合同会社は会社法で新設されたので旧商法時代にはありませんでした。)
 
 その点合名合資会社には出資の最低金額はありませんでしたので、個人事業主だが法人の名義が欲しい場合には合名会社や合資会社を作ると言うケースがありました。
 現在は株式会社の最低出資金規定が撤廃されましたので、資金が少ないからと言って合名合資会社を作る必要はありません。
 
 さて、これも余談になりますが、「資本金に300万円も用意できない、でも法人の名義が必要だ」となっていた地方の酒蔵や小さな醸造メーカーは、合資会社の設立が主流だったそうです。地方の小さな酒蔵を見ると「○○酒造合資会社」と言った看板を比較的多く見かけることはあります。
 ひょっとしたら過去の例にならって、現在でも「新造の酒蔵は合資会社で設立する」と言うケースもあるのかもしれません。
 
 
 
3.有限会社は作れない、もう二度と
 
 合名合資会社ときて現存するその他の会社形態、株式会社の次くらいに名前の知られている有限会社ですが、前回にもお話ししたとおり、会社法(商法)から有限会社の規定が削除され、有限会社を新設しようと思ってもできなくなりました。
 現在存在する有限会社は「特例有限会社」となり、実質的には株式会社と同じ形態の会社となりました。
 有限会社自体は拡張性が乏しく大会社となったり何世代も時代を超えて存続するようなシステムではないため、現行法が続けばいずれは消失してしまうのではないかと思われます。
 
 
 
 まとめるとやはり合名合資会社は不利な点が目立ちます。それでも現在において年間設立件数があわせて200件前後はあると言うことなので、株式会社と比べてそれなりに有利な点もあるのでしょうか。(色々調べてみましたが、その点については不明なままでした、申し訳ありません。)
 起業家の皆様におかれましては、「選択肢には入らないけど法律上は存在している会社」程度の認識で充分ではないかと思います。
 やはり会社を設立するなら株式会社か合同会社でしょう。