マスク転売規制と法令についてのお話
メルカリやヤフオク等の一部のオークションサイトでは個別に対応していましたが、去る3月15日から、マスクの転売について法的に規制がかかりました。
大半の人は「衛生マスクを購入した値段よりも高値で転売する行為が法律で禁止」「違反すると1年以下の懲役か100万円以下の罰金」と言うことを知って頷いて終わりだと思いますが、私も法律を扱う職業の端くれ、規制の根拠法とか根拠条文が気になるわけです。
今回はマスク転売規制の根拠となる法令がどこにあるのか、そんなお話をしたいと思います。
1.マスク規制の根拠法
日本において、日用品だろうがなんだろうが買い占めと高値での販売は基本的には自由です。それが我が国の標榜する自由な経済活動ですし資本主義経済そのものです。
ただし、大企業や大手資本がそれをやってしまったら中小や零細はたまったものではないですし、国民にも大きな影響を及ぼします。
そんなわけで、安定した経済を実現するために、皆様ご存じの独占禁止法やその他の法律で規制をかけているわけです。
さてさて、今回対象になった衛生マスクの転売規制ですが、新たに「マスク転売規制法」みたいなものを作ったのでしょうか?いえいえ、新しく法律は作っていません。
では独占禁止法を改正した?……ではなく、「国民生活安定緊急措置法」によって規制がなされています。
国民生活安定緊急措置法は新設の法律ではなく、昭和47年12月に施行された法律です。
この年に何があったか……そう、オイルショックによるトイレットペーパー買い占めですね。
政府としても何かあるたびに社会現象となって日用品が不足することは非常に困るため、「緊急措置法」と言う形で日用品に対する買い占めや高額転売を防ごうと法律を作ったわけです。
2.国民生活安定緊急措置法の改正によって転売を禁止した?
厳密に言うと「国民生活安定緊急措置法」自体を改正したわけではありません。
国民生活安定緊急措置法は法令のハード部分、基礎であり土台ですので、ここをいじるのは現実的ではありません。条文上も「トイレットペーパー」や「衛生マスク」と言った具体的な名称ではなく、「日用品」と言う表現にとどめています。
ではどうやってマスク等の転売を規制しているかと言うと、ソフト部分である「政令」等を改正することによって、個別具体的な商品を規制することにしているわけです。
今回で言えば「国民生活安定緊急措置法施行令」において、指定生活物資を具体的に「衛生マスク」と規定し、転売及び買い占めを規制したわけです。
ちなみに「国民生活安定緊急措置法」の条文上では、「なにか生活物資の価格が著しく上昇可能性があるときは、政令でその物資を指定してね。経済が安定したら指定解除を忘れないようにね」と言う風になっています。
なお、現在トイレットペーパーは指定されてはいませんので、買い占めや高額での転売をしても刑事罰には問われないはずです。
3.いつまで転売規制が続くの?
経産省のサイトを見る限り、有効時限は特に記載されていません。事態が収束したらしれっと閣議決定して転売規制が外されるんじゃないかと思います。
成立するときはマスコミや関係者によって広く知れ渡るようなニュースになりますが、なくなるときは大体ひっそりと解除されるので国民に知れ渡ることは少ないです。
まあそもそもメルカリやヤフオク等では法的な規制がされる前からマスクの出品を制限してますし表立って取引できるところはもうすでにありません。
これだけニュースにもなっているので、実際にマスクの転売規制に引っかかって逮捕される人も正直いないんじゃないかと思っています。
4.まとめ
日常生活において「規制の根拠法は何であって、根拠となる条文はどれで」なんてことは必要ありません。
ただまあ、行政や政府による規制や国民への制限は、日本国においては全て法令が根拠となっています。
今回のマスク転売規制で言えば「国民生活安定緊急措置法」の付属政令である「国民生活安定緊急措置法施行令」で定められていると言う訳ですね。
普通に生活する分には全く役に立つわけでも何でもありませんが、行政が「今度こう言ったことを制限しようと思います」と言ったときに、その根拠となる法令は何なのか等を考えるのも、たまには面白いんじゃないかなと思います。